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プロローグ「雨の中で」


 紫に煙る灰色のビル群に紛れて、そいつはぽつんと立っていた。

 そいつに関してまず言えることは、美人だと言うことだ。
 美人だ。飛び切りの美少女だ。しかし可愛いというタイプではない。可愛いと言う奴も居るが、俺は同意しかねる。
 髪はそれほど長くない。肩に掛からない程度に切りそろえられた黒髪で、今は似合うのか似合わないのか微妙な、白いキャップを被っている。
 眼は、いつもまぶたが半分ほど閉じていて、見方によっては鋭い眼光にも見えるし、妖艶にも見える。俺はただ単に年中貧血で眠たそうにしてるだけだと思う。
 そいつは学校指定の制服に身を包みながら、紫煙を燻らせていた。
 じっと息を潜めて、目の敵を睨むように空を見上げている。
 時折、白い頬から首筋まで雨粒が伝わって、俺を落ち着かない気持ちにさせた。
 辺りは暗い。分厚い雲のお陰で光は地上に届かず、そいつは雨に濡れながら、ずっと何かに耐えているようだ。

 寒いなら、傘を差せばいいのに。

 俺はそいつと同じく雨に濡れながら、声を張り上げた。そいつとの距離は五メートルってところだ。
「oi……ミス。おい」
 とんでもなく冷たい雨に、俺は凍えそうだった。
「寒くないのかよ」
 そいつは空から俺に視線を落とした。
 空を見上げていた時よりも、眼の開放率が10%ほど下がっている。
 そいつはたっぷり時間をかけてタバコの煙を肺に押し込み、俺に向かって不味そうに煙を吐き出した。
 そして、本当に微かな笑みを浮かべてそいつは嘯く。
「あなたが暖めてくれる」

 
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