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超機動魔法少女★五十嵐優希


 紫に煙る灰色のビル群に紛れて、そいつはぽつんと立っていた。

 そいつに関してまず言えることは、美人だと言うことだ。
 美人だ。飛び切りの美少女だ。しかし可愛いというタイプではない。可愛いと言う奴も居るが、俺は同意しかねる。
 髪はそれほど長くない。肩に掛からない程度に切りそろえられた黒髪で、今は何故かカチューシャを付けている。メイドとかが装備しているアレだ。
 眼は、いつもまぶたが半分ほど閉じていているのだが、今はオメメぱっちり。キラキラと輝いていた。俺はこの世の終わりが来たのだと確信する。
 そいつはどこからどう見てもメイドの格好で、仁王立ちしていた。
 腕を組み、勝ち誇った顔で俺を見つめている。
 その手には、おもちゃ屋で売っている魔法少女のタクトが握られていた。



「どう!?」

 気でも狂ったか。
 目の前の少女――五十嵐は鼓膜が破裂しそうな大声を上げて俺に問いかけたが、俺の方はと言うと、この路地裏に誰か人が通りはしないか見張ってやることくらいしか出来なかった。
 こんな姿は誰にも見せられない。
「可愛い?」
 タクトをくるりと回して、スカートをほんの少し持ち上げてみせる五十嵐。
「可愛いって言うより……可哀想」
 俺は心底同情しながら呟いた。
 こんなに心の底からの本音を喋ったのは何年ぶりだろう。
 人は、年を重ねるごとに純粋さを失っていくものだ。
 しかしそれでいい。

 ずっと純粋過ぎるとあんな風になってしまうのだ。

「カワウソウ?」
「なんだそのカワウソと植物が融合したポケモンは。お前の頭が可哀想だって言ったんだ」
「失礼だな。僕、魔法少女になったみたいなんだよね」
「そうか……分かった、今黄色い救急車を呼んでやるからな」
 俺は携帯を取り出して、119と110のどちらに連絡するべきか悩む。
 走馬灯のように五十嵐と過ごした思い出が脳裏を過ぎったが、ほとんどが黒く塗りつぶされた歴史なので特に感慨は無かった。
 俺は言う。
「一度壊れた精神は……もう元通りには……」
「えいっ☆」
 刹那。五十嵐が可愛らしい掛け声と共にタクトを振ると、雷のような轟音が鳴り響いた。

 そして、俺の持っている携帯が手の中で突然爆発した。

 簡単に言うと爆発したのだ。
 俺の三年間愛用していた携帯が、木っ端微塵だ。

 俺は暫く、右手に残った鉛のような物体を見つめ固まった。
 携帯電話との思い出が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。
 五十嵐との思い出より充実していることに、俺は彼の代わりに泣いた。
「信じてくれたかな、僕の力を」
「……携帯を直してくれたら信じてもいいぞ」
「…………チッ」
 短く舌打ちをする五十嵐。
 目はいつものように半眼になり、ドス黒いオーラに包まれている。
「ならば仕方あるまい」
 そして五十嵐は特撮の悪役のようなセリフを呟き、タクトを振り振り、珍妙なダンスを始めた。
 念仏のような歌付きだった。
「魔法の〜力で〜メイクア〜! アップップ〜! ソモサン!」
「セッパ!?」
 俺のツッコミも虚しく、謎の光が五十嵐を包む。
 どこからともなく、ドンドンドドンと太鼓の音が響いて来た。

 違う。

 これは少なくとも、俺の知っている魔法少女の変身じゃない。
 混乱する俺の頭を置いてきぼりにして、和太鼓の音色に益荒男の掛け声が唱和する。どこに待機してるんだよ、おかしいだろ。そもそも、既に魔法少女っぽい微妙な格好していたのに、そこからさらに変身するのがオカシイ。
 しかし、光の収まった後に現れた物体(それはもはや人ではなかった)は、西洋の甲冑を着た悪魔騎士のような姿だった。

 あるわ。変身の意味。

 それはどう見ても、仮面ライ○ダーだったら確実にラスボスクラスの、敵役の姿だった。
 五十嵐(仮)は手に持ったタクトを掲げて呟く。
「メテオ」
 俺はタクトに導かれるように空を見上げ、超大な魔方陣が浮かび上がるのを目撃した。
 巨大な、血のように赤い平面図が、中空に浮かび上がって鈍い光を放っている。
 そしてそこから、灼熱の炎を纏った無数の隕石が街に降り注いだ。
 破滅的な轟音がビルの窓を揺らし、衝撃波を伴った突風が俺の身体を吹き飛ばした。
 そして映画のワンシーンのような惨状が、俺の目に飛び込んでくる。

「え?」

 倒壊したのだ。
 はるか遠くにそびえ立つビル群は、911よりもいくらか自然に崩壊した。

 俺は、ただそれを眺めている。
 他にどうしろと言うのだろうか。
 日本は滅びるのだ、魔法少女(偽)によって。
 燃え行く街。
 人々の悲鳴や怒号。

 それを潜り抜ける、澄んだ声が響く。

「魔法少女っぽいでしょ」
「どこがだよ!」
 俺は叫んだ。死に行く街の人々に負けないくらいの大声で。


                                        完

 
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